横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)28号 判決
原告
西山康光(X)
被告
横浜市(Y1)
右代表者市長
高秀秀信
被告
横浜市教育委員会(Y2)
右代表者委員長
高杉暹
右両名訴訟代理人弁護士
綿引幹男
事実及び理由
第一 請求
一 被告横浜市教育委員会が別紙文書目録一ないし一一記載の文書についてした公文書非公開決定をそれぞれ取り消す。
二 被告横浜市は原告に対し金五〇万円を支払え。
第二 事案の概要
一 本件は、被告横浜市の設置する養護学校の教員であった原告が、同被告等に対し、地位確認、未払賃金の支払等を求める別訴を提起しているところ、右別訴の証拠として提出するため、被告横浜市教育委員会に対し、同僚教諭の出勤簿等の公開請求をしたところ、同被告から、これらの文書は横浜市公文書の公開等に関する条例九条一項一号の個人に関する情報に当たるとして、非公開決定を受けるなどしたため、その取消しを求め、また、右非公開決定などにより精神的損害を被ったとして、被告横浜市に対し慰謝料五〇万円の支払を求めている事案である。
〔中略〕
第三 争点に対する判断
一 本件各公文書の非公開理由について
1 退職原議(文書目録一)について
〔証拠略〕によれば、右文書は、本郷養護学校高等部教諭乙野花子の退職発令の原議であり、年度途中で退職した教職員について作成され、退職者表、退職願、学校長による教職員等の退職意見具申書、辞令案及び勤務記録カード等から成り、当該職員の氏名、年齢、性別等が記載されているほか、退職者表には、勤続年数及び退職理由等が、退職願には、退職日及び退職理由等が、教職員等の退職意見具申書には、給料月額、退職理由及び発令日(退職日)等が、勤務記録カードには、現住所、学歴及び職歴、給与に関する事項等が記載されていることが認められる。
ところで、〔証拠略〕によれば、条例九条一項一号は、公開請求に係る公文書が「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって、特定の個人が識別され、又は識別され得るもの」に当たる場合、これを公開しないことができる旨規定していることが認められる。右規定は、個人のプライバシーは、一度侵害されると、当該個人に回復困難な影響を及ぼすことから、およそ「個人に関する情報」は、公開された場合のプライバシー侵害の程度にかかわらず、公開しないことができるとしたものと解される。
退職原議に記載されている教職員の氏名、年齢、性別、勤続年数、学歴及び職歴、給与に関する事項、退職理由及び退職日等は、いずれも公務とかかわりのない「個人に関する情報」であり、かつ、これらの記載自体から特定の個人が識別されるものというべきである。そして、個人に関する情報の公開の可否を、公務員と公務員以外の者とで、別異に解すべき理由もないから、これらの情報は、条例九条一項一号により非公開とし得るものに当たるというべきである。
原告は、養護学校の教職員が退職した場合、生徒の介護、教育の必要上、代替職員の確保が不可欠であるから、本件の退職原議は、公務に関する情報というべきものであると主張するが、養護学校の教職員の職務が特殊性を有するからといって、教職員個人の退職理由等が、それ自体、公務に関する情報に当たるといえないことは明らかであり、原告の主張は理由がない。
原告は、退職原議の記載のうち、退職理由や給与に関する事項以外は、公開しても、当該教職員のプライバシーとの関係で問題がないとも主張するが、当該情報が、個人に関する情報に当たる以上、これを公開した場合のプライバシー侵害の程度いかんにかかわらず、これを非公開とし得ることは前述のとおりであり、原告の主張は理由がない。
また、原告は、退職者の氏名や退職日は、一般の新聞誌上等で公表されているから、これを非公開とすべき理由はないと主張する。条例九条一項一号が、個人のプライバシー保護を目的とするものであることからすれば、右規定は、「個人に関する情報」であっても、これを公表することが慣行化しているものについてまで非公開とし得るとする趣旨とは解されない。しかし、本件の退職原議が年度途中で退職した教職員に関するものであることは前記認定のとおりであり、本件各証拠によっても、新年度の人事異動に関連した年度末の退職者についてはともかく、年度途中で退職した教職員の氏名、退職日等を一般新聞紙上等で公表するまでの慣行が存するものとはにわかに認められない。また、年度途中で退職した教職員の氏名や退職日を公開した場合、当該教職員の退職理由等が推測されるおそれもあるから、これを非公開とする理由がないとはいえない。
原告は、被告教育委員会が、弁護士法二三条の二第一項、二項の弁護士会の照会に対し、教職員の休職の期間や退職日等を回答しており、退職原議を非公開とすることは右取扱いと均衡を欠くとするが、同被告がそのような回答を行っていることを認めるに足りる証拠はなく、また、弁護士は、職務上の守秘義務を負い(弁護士法二三条)、弁護士会は、弁護士の照会の申出が適当でないと認めるときは、これを拒絶することができるとされている(同法二三条の二第一項)ことからすれば、これを一般の公文書公開の場合と同列に論じることはできない。原告の右主張は、いずれにせよ、理由がない。
原告は、別訴において違法解雇、賃金未払等を立証する目的で退職原議の公開を求めており、これは、条例九条一項一号かっこ書、二号ただし書ア、イの、「公開することが公益上必要と認められるもの」に当たるとも主張する。しかし、〔証拠略〕によれば、条例九条一項一号かっこ書は、個人に関する情報のうち、法令等の規定により行われた許可、免許、届出その他これらに相当する行為に際して作成し、又は取得した情報であって、公開することが公益上特に必要と認められるものを、同項二号ただし書ア、イは、法人等に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報のうち、事業活動によって生ずる危害から人の生命、身体等を保護するため公開することが必要と認められるもの及び違法又は著しく不当な事業活動によって生ずる支障から市民の生活を保護するため、公開することが必要と認められるものを非公開の例外としていることが認められる。本件の退職原議が右のいずれの文書にも当たらないことは明らかであり、原告がこれを訴訟資料として用いる目的で公開を求めているからといって、右要件とかかわりなく、これを公開することが公益上必要であるとはいえない。
以上により、被告教育委員会が本件の退職原議を非公開としたことは違法であるとはいえない。
2 出勤簿(文書目録二、七、九及び一一)について
〔証拠略〕によれば、文書目録二の文書は、平成三年九月から平成四年二月までの本郷養護学校高等部一年三組担当の女性教諭の、同目録七の文書は、平成六年八月及び同年九月の横浜市立下野谷小学校(以下「下野谷小学校」という。)女性教諭の、同目録九の文書は、平成三年から平成五年までの本郷養護学校校長の、同目録一一の文書は、平成二年九月から平成三年三月二五日までの同学校高等部教諭の出勤簿であり、暦年を単位として各教職員ごとに作成され、職名、氏名のほか、各月ごとに、当該教職員が出勤時に押印した印影、出張、研修の日数、休暇の種別及び日数、時間、休職、育児休業の日数、欠勤(遅刻、早退を含む。)の日数、時間等が記載されたものであることが認められる。
これらのうち、当該教職員が出勤時に押印した印影及び毎月の出張、研修の日数を記録した部分は、公務員たる教職員の勤務状況を記録したものであるから、公務に関する情報にほかならず、右以外の休暇、休職、育児休業の日数、時間等は、公務と直接かかわりのない個人に関する情報に当たるというべきである。したがって、被告教育委員会が、前記各出勤簿について、右公務に関する部分を非公開としたことは、違法というべきである。
被告教育委員会は、出勤簿の記載のうち、教職員が出勤時に押印した印影部分及び毎月の出張、研修の日数を記録した部分のみを公開するとした場合、右部分から、休暇等の取得時期や日数が明らかとなるから、すべてを非公開とする必要があると主張する。しかし、前記認定の出勤簿の様式、内容からすれば、教職員が出勤時に押印した印影部分及び毎月の出張、研修の日数のみを公開したとしても、これらの表示のない部分が、欠勤あるいは休暇等のいずれに該当するかが必ずしも明らかとなるわけではないから、その結果、直ちに休暇等の取得時期、日数が明らかとなるとはいえない。したがって、右公務に関する部分のみを公開することは可能というべきである。
また、〔証拠略〕によれば、神奈川県知事は、神奈川県の機関の公文書の公開に関する条例に基づき、原告を含む本郷養護学校の非常勤講師四名についての公立養護学校非常勤講師勤務状況調書を、出欠事由及び採用事由の記入欄を除き、公開している(原告本人の分については右欄を含めすべてを公開している。)こと、右勤務状況調書は、学校長から横浜給与事務所長に提出されるもので、公立養護学校の非常勤講師について、各月ごとに作成され、氏名、任用期間、出欠事由及び採用事由等のほか、勤務状況内訳として、出欠状況(当該非常勤講師が手書きで記入する。)、毎月の出欠日数等が記録されるものであることが認められる。
被告教育委員会は、右勤務状況調書は出勤簿と異なり、休暇等に関する記載がないことから、公開に支障がなく、出勤簿と異なる扱いをする理由があるとする。しかし、右勤務状況調書も、出欠の表示がない部分から休暇等の取得時期、日数をある程度推測しうることに変わりはないといえるから、出勤簿についてのみ、これらが明らかになるとして記載のすべてを非公開とする理由はないというべきである。
以上のことから、被告教育委員会が前記各出勤簿についてした各非公開決定のうち、当該教職員の出勤時の印影部分及び出張、研修の日数を記録した部分を非公開とした部分は違法であるが、その余の部分を非公開としたことは違法であるとはいえない。
3 休暇承認簿(文書目録三ないし六)について
〔証拠略〕によれば、文書目録三の文書は、平成三年一〇月から平成四年二月までの本郷養護学校高等部一年担当の女性教諭の、同目録四の文書は、平成三年一〇月から平成四年二月までの同学校高等部教諭の、同目録五の文書は、平成三年九月から平成四年三月までの同学校高等部三年三組担当の男性教諭(ただし、原告は、個人名を除いて公開請求している。)の、同目録六の文書は、平成三年八月及び九月の下野谷小学校女性教諭の休暇承認簿で、いずれも暦年を単位として各教職員ごとに作成され、学校名、職名、氏名のほか、休暇の種別、期間、日数、時間及び理由(年次休暇の場合を除く。)等が記載されたものであることが認められる。
教職員が、いつ、いかなる理由により、どの程度の期間、休暇を取得したかは、公務と直接かかわりのない個人に関する情報にほかならず、その記載自体から特定の個人が識別されるものであり、公務員については別異に解する理由もないから、被告教育委員会が、本件の各休暇承認簿が条例九条一項一号の「個人に関する情報」に当たるとしてこれを非公開としたことが違法であるとはいえない。
原告は、養護学校の教職員が休暇を取得した場合、生徒の介護、教育に支障をきたし、代替職員の確保が不可欠となるから、本件の各休暇承認簿は、公務に関する情報に当たるとする。しかし、前述のように、養護学校の教職員の職務がそのような特殊性を有するからといって、当該教職員が個人として取得した休暇についての情報が、それ自体、公務に関するものといえないことは明らかである。
また、原告は、休暇の理由のうち、特に当該教職員のプライバシーにかかわる事項以外は公開しても支障はないとし、少くとも、休暇の期間は、「個人に関する情報」というべきものではないとする。しかし、当該情報が「個人に関する情報」に当たる以上、それが公開された場合のプライバシー侵害の程度にかかわらず、これを非公開とすべきことは前述のとおりである。また、当該教職員がどの程度の期間、休暇を取得したかはそれ自体、個人のプライバシーにかかわるものというべきであり、また、休暇の期間はその取得理由等とも関連することからすれば、非公開とすべき理由がないとはいえない。
なお、原告は、教職員の休暇等の取得状況は、学校だより等で公表されることが慣行化しているとし、甲三五号証によれば、横浜市立小学校の学校だよりに特定の教職員の休職等に関する情報が掲載されていることが認められる。しかし、右証拠によっても、校内誌等に教職員の休暇の取得理由や期間等の詳細を掲載することが慣行化しているとまでは認められず、また、校内誌等が生徒やその父兄等の限られた範開に配布されるものであることからすれば、これにより、教職員の休暇等についての情報が一般に公表されているとはいえない。
また、前同様、休暇承認簿が、条例九条一項一号かっこ書、二号ただし書ア、イにより非公開の例外とされる文書に当たらないことも明らかである。
4 職務専念義務免除等承認簿等(文書目録八、一〇)について
〔証拠略〕によれば、職務専念義務免除等承認簿は、暦年を単位として、各教職員ごとに作成され、学校名、職名、氏名、職務専念義務免除の事由、期日、予定時間及び実時間等が記載されるものであり、文書目録八の文書は、平成六年八月及び同年九月の下野谷小学校女性教諭の職務専念義務免除等承認簿であることが認められる。
教職員が職務専念義務免除の承認を受けた時期や時間、その事由等は、公務と直接のかかわりのない個人に関する情報であり、学校名、氏名はもとより、職務専念義務免除の承認を受けた時期や日時等からも特定の個人が識別され得るものであり、公務員については別異に解すべき理由もないから、右は、条例九条一項一号の「個人に関する情報」に当たるというべきである。
原告は、養護学校の教職員の職務の特殊性から、その職務専念義務免除に係る情報は、公務に関する情報であるとするが、当該教職員が職務専念義務の免除を受けた場合に、生徒の介護等を行う代替職員が不可欠となるとしても、そのことから、右情報がそれ自体、公務に関する情報であるということはできない。
原告は、職務専念義務の免除事由は、永年勤続表彰式への出席や人間ドックの受診など、個人の思想や信条にかかわるものではなく、受診する病院名や病名等、特に当該教職員のプライバシーにかかわるものを除けば、公開に支障がないとするが、条例九条一項一号は、およそ個人に関する情報である以上、それが公開された場合のプライバシー侵害の程度にかかわらず、これを保護する趣旨であることは前述のとおりであり、原告の右主張は理由がない。
なお、前同様、右承認簿が、条例九条一号かっこ書、二号ただし書ア、イにより、非公開の例外とされる文書に当たらないことも明らかである。
また、〔証拠略〕によれば、文書目録一〇にいう平成三年一〇月から平成四年三月までの本郷養護学校高等部の職務専念義務免除等承認簿については、被告教育委員会は、原告に対し、平成七年四月二六日付けで、右の職務専念義務免除等承認簿という文書の様式が定められたのは、平成五年四月一日からであり、右請求に係る期間については該当する文書が存在しない旨の回答をしていることが認められるから、原告請求に係る右文書は、存在しないものというほかはない。
もっとも、これについては、右請求に係る期間、右承認簿と同じ様式の文書が作成されていなかったとしても、教職員が職務専念義務の免除を受ける際に、これに相当する何らかの文書が作成されていたのではないかとの疑問もないではないが、仮に、そのような文書が存在したとしても、これが、条例九条一項一号により非公開とすべき「個人に関する情報」に当たることは前述のとおりであるから、被告教育委員会の前記措置は、いずれにせよ、違法であるとはいえない。
二 慰謝料請求について
1 原告は、本件各文書の非公開決定により、知る権利を侵害され、これらの文書を別訴の証拠資料として用いることができず、訴訟の遅延をきたすなど、精神的苦痛を被ったとする。そして、被告教育委員会が文書目録三ないし六の出勤簿の記載の一部を非公開とする決定をしたことが違法であることは前述のとおりである。しかしながら、非公開決定は訴訟手続により取り消されることが予定されているといえ、原告が右取消しによっては賄いきれない精神的損害を被ったことを認めるに足りる特段の事情もない本件において、これにつき別途、慰謝料の支払を求めることはできないというべきである。
出勤簿のその余の部分及びこれ以外の文書についての非公開決定が違法といえないことは前述のとおりであり、これらについての慰謝料請求も理由がない。
2 旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)の非公開について
前記第二の二の争いのない事実等に加え、〔証拠略〕によれば、以下の事実が認められる。
原告は、平成三年七月、本郷養護学校高等部の非常勤講師の退職に伴い、代替の非常勤講師として任用され、被告教育委員会から同月四日付けで、報酬日額一万一四六〇円(土曜日は五七三〇円)、勤務時間一週三三時間との辞令を受けた。
本郷養護学校において、教職員が出張等に係る旅費を請求する場合秀「旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)」に当該教職員において、旅行月日、用務地及び用務内容等を記載して命令権者である学校長に提出し、学校長が承認印を押印し、旅費請求の手続がとられている。平成三年九月一一日、一二日に、高等部の教員が生徒の宿泊学習で足柄ふれあい村に出張したが、その際、原告から学校長に対し、右出張に同行したいとの申入れがあった。学校長は、非常勤講師は勤務時間の制限があり、宿泊を伴う出張を命じることができないため、正式な出張扱いとはせず、原告が右旅行の前後二日を含む四日間、通常勤務したかたちにして同行を認め、右四日分の報酬を支給した。そのため、原告から右出張について旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)は提出されず、旅費請求の手続はとられなかった。
原告は、被告教育委員会に対し、平成七年四月七日、右宿泊学習に係る出張命令承認簿の、同年六月一二日、交通費の請求書及び領取書の公開請求をしたが、同被告は、同年四月二六日付けで、右承認簿は作成されていないため、公開請求の対象となる文書は存在しない旨の回答をし、同年六月二六日付けで、右請求書等についても、出張の手続が行われていないため、存在しない旨の回答をした。
平成三年一一月一日、学校長が高等部の教員二名とともに、生徒の実習先である橋本フォーミングに巡回指導に赴いた際も、原告が同行したいと申し出たが、実習先への巡回指導は、生徒の進路指導の一環として行われ、正規の教員のみが参加する扱いがされていたため、学校長は、原告を事実上同行させることとし、正式な出張扱いとはしなかった。そのため、原告から旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)は提出されず、旅費請求の手続もとられなかった。
また、平成四年二月一九日、高等部の教員が生徒の引率で東京都の品川水族館に赴いた際、原告もこれに同行したが、右出張についても、原告から旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)は提出されていない。
以上のとおり認められ、〔証拠略〕、原告本人の供述中、右認定に反する部分はにわかに採用し得ない。
右のとおり、足柄ふれあい村への出張について、原告の旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)は作成されていないのであり、被告教育委員会が、原告の公開請求に対し、これらの文書が存在しないとの回答をしたことは違法ではない。また、橋本フォーミング、品川水族館への出張については、そもそも、原告が同被告に対し、旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)の公開請求をしたことを認めるに足りる証拠はない。原告本人は、これらの出張についても、学校長に右の文書を提出し、被告教育委員会に対し、その公開請求をしたと供述するが、にわかに採用し得ない(右の文書が作成されていないものと認められることは、前同様である。)。
以上のことから、被告教育委員会が、原告の出張に係る旅行命令(依頼)簿(旅費請求書)等を違法に隠匿しているとはいえない。
3 自治会役員届の非公開決定について
〔証拠略〕によれば、原告は、平成四年度から平成五年度にかけて戸塚リベラヒルズ自治会の会長を務めていたが、自治会の代表者の氏名や住所等を記載した自治会・町内会名簿が、当該地域の住民に配布されるなどしていることがプライバシー侵害に当たると考え、その公表の程度等を明らかにするため、平成六年一〇月二四日、横浜市長に対し、「平成六年度自治会町内会役員届」の公開を求めたところ、同市長は、自治会の代表者名を非公開とする一部非公開決定をしたこと、右決定について原告がした異議申立てに対し、同市長は、平成七年一月一〇日付けで、右決定を変更し全部を公囲する決定をしたことが認められる。
原告は、右異議決定を得るまでに多大な労力等を費やし、精神的損害を被ったとするが、非公開決定による不利益は、不服申立ての手続によって救済されることが予定されているから、原決定を変更し、全部公開とする異議決定がされた以上、特段の事情のない限り、原告の不利益は救済されたものというべきであり、本件において、異議決定を得るまでの労苦等がそれ自体損害であるとして、これとは別個に損害賠償を求めることはできないというべきである。原告の主張は理由がない。
4 墓地等廃止許可申請書等の交付について
〔証拠略〕によれば、原告が、横浜市長に対し、寶藏院の法人登記簿謄本、戸塚区五番地墓地の墓地等廃止許可申請書等の公開請求をしたところ、同市長は、平成七年一二月五日、公開決定をして原告に右公開請求に係る文書の写しを交付したこと、これらの中には、縮小、拡大され、原本と規格の異なるものが含まれていたので、原告がこれに異議を述べたため、同市長は、同月二六日、原本と同規格の写しを原告に再送付したことが認められる。
原告は、右文書の印影等を他の文書と比較対照する都合上、原本と同規格の写しが不可欠であるところ、右写しの再交付を受けるのに手間取り、精神的損害を被ったとする。しかし、右認定のとおり、横浜市長は、原告が異議を述べた後、すみやかに原本と同規格の文書を再交付していることからすれば、原告が、前記措置により精神的損害を被ったとまでは認められない。原告の主張は理由がない。
5 文書の公開場所について
〔証拠略〕によれば、原告が平成八年一〇月二二日に公開請求した「平成八年度自治会町内会役員届」のうち戸塚リベラヒルズ自治会分について、横浜市長が、同年一〇月三一日付けで一部公開決定をし、原告に対し、公開の場所を戸塚区役所区政推進課広報相談室とする通知をしたことが認められるところ、原告は、公開請求が受理された場所が横浜市庁舎であり、右庁舎の方が原告の住所に近いにもかかわらず、同市長が、あえて戸塚区役所で右文書を公開するとしたことは違法であるとする。しかし、〔証拠略〕によれば、条例八条三項は、公文書の公開をする日時及び場所は、実施機関が定めるものとし、横浜市公文書の公開等に関する事務取扱要綱第2の6、(3)、ウは、公開の場所は、原則として、局に係る公文書の閲覧等については市民情報センターを、区役所に係る公文書の閲覧等については当該区役所を指定するとしていることが認められる。そして、原告が公開請求した文書は、戸塚リベラヒルズ自治会分の町内会役員届であり、戸塚区役所に係る公文書と認められるから、横浜市長が公開場所を戸塚区役所としたことは、条例及び前記要綱の規定に則った措置であって、にわかに違法とはいえない。
6 以上のことから、原告の主張する慰謝料請求は、理由がない。
三 結論
以上のとおりであり、本件請求は、被告教育委員会が、文書目録二、七、九及び一一の各文書についてした非公開決定のうち、当該職員が出勤時に押印した印影部分及び出張、研修の日数を表示した部分を非公開とする部分の取消しを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 近藤壽邦 近藤裕之)
別紙 文書目録
一 特殊教育諸学校教員の退職について(伺)
(平成七年教教第二〇二一号)
二 出勤簿(平成三年九月から平成四年二月までの横浜市立本郷養護学校高等部一年三組担当女性教諭の分)
(平成七年教教第二〇三三号)
三 休暇承認簿(平成三年一〇月から平成四年二月までに横浜市立本郷養護学校高等部一年担当女性教諭の分)
(平成七年教教第二一五六号)
四 休暇承認簿(平成三年一〇月から平成四年二月までの横浜市立本郷養護学校高等部教諭の分)
(平成七年教教第八一号)
五 休暇承認簿(平成三年九月から平成四年三月までの横浜市立本郷養護学校高等部三年三組担当男性教諭の分)
(平成七年教教第一七七号)
六 休暇承認簿(平成六年八月及び同年九月の横浜市立下野谷小学校女性教諭の分)
(平成七年教教第三八八号)
七 出勤簿(平成六年八月及び同年九月の横浜市下野谷小学校女性教諭の分)
(平成七年教教第三八八号)
八 職務専念義務免除等承認簿(平成六年八月及び同年九月の下野谷小学校女性教諭の分)
(平成七年教教第三八八号)
九 出勤簿(平成三年から平成五年までの横浜市立本郷養護学校校長の分)
(平成七年教教第一三三八号)
一〇 職務専念義務免除等承認簿(平成三年一〇月から平成四年三月までの本郷養護学校高等部の分)
(平成七年教教第八一号)
一一 出勤簿(平成二年九月から平成三年三月二五日までの横浜市立本郷養護学校高等部教諭の分)
(平成七年教教第四三三号)